スペーサ

作品に使われている液体は、「磁性流体」。黒褐色の艶やかな液体でありながら、磁界に反応する不思議な物質――。
もともと磁性流体は、1960年代の初め、NASAのスペースプログラムにおいて、宇宙空間の無重力状態におけるロケット用液体燃料の磁気的な輸送制御、あるいは宇宙服の液体封止材としての利用を狙って開発されました。
・・・最先端技術の結晶・・・ 磁性流体とは、磁石に反応する液体です。

磁界に反応する物質は"磁性体"と呼ばれます。その代表的なものとして、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属や、金属酸化物などがありますが、これらはいずれも固体です。
これに対し、「磁性流体」は液体――。固体の磁性体と同様、磁界に反応し、意図する位置に保持をさせたり、変化させたりできる材料としては、現在知られている唯一の素材です。

磁性流体の正体は、直径が10nm程度の磁性超微粒子と、主成分である水、有機溶剤または油等の液体(分散媒)、およびその粒子に吸着して粒子を液体中(分散媒)に安定に分散させるための界面活性剤の3成分によるコロイド溶液です。
磁性流体は磁界が零の時は磁性の無い単なる液体ですが、マグネット等の磁界を作用させる事で、磁性流体は磁化します。しかしながらマグネットを遠ざける(磁界を取り除く)と、磁化は再び消滅します。このような磁気的性質を超常磁性と言います。磁性流体は残留磁化およびヒステリシスといった特性を持ちません。
また磁性流体中の磁性粒子は極めて小さい事と表面の活性剤層の相互反発力等により、凝集したり、重力によって沈降したりすることがなく安定な分散状態を保ちます。

現在、磁性流体はスピーカーへの応用、またコンピュータのHDD(ハードディスクドライブ)内に用いられている導電性防塵シールや半導体製造装置用真空シールなどのシール剤として必要不可欠な製品として活躍していますが、この展覧会では、普段は表舞台には出ることの無いこの液体が、アートの素材として作品の重要な部分に使われています。

コンピューターシール 真空シール スピーカーへの応用
コンピューターシール
真空シール
スピーカーへの応用

協力:株式会社フェローテック